映画『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』飛べるように軽くなること ※ネタバレ度高めの感想です

2019-03-05映画・海外ドラマ

予想以上の映画でした。Netflixではダークコメディというジャンルになっているので、まぁ皮肉っぽい感じはあるのかと思ったけど、今の映画界を思いっきり皮肉ってるし、実名もビジュアルもバンバン出すし…めちゃくちゃやってる。

でもこれ、アカデミー賞4部門とってるんだよね。作品賞・監督賞・脚本賞・撮影賞の4つ。アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督もすごいけど、映画界?アカデミー会員の人たち?もすごいよね。きっとこの映画で言ってるいろんなこと、感じてる人多かったんだろうな。
私もかなりニヤニヤしちゃったもんね。
バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)

かつてヒーロー映画でスターになったものの、今は落ち目の俳優リーガン・トムソン。かつての名声をもう一度手に入れるため、自分で企画したブロードウェイでの舞台にすべてをかける。そして、なぜか彼には自分がかつて演じたヒーロー「バードマン」の声が聞こえている。というお話。

継ぎ目のない映像

この映画、映像の途切れるところほとんどないんですよ。ずーっと。ちょっとなんて言うのか忘れたので調べちゃいましたが『長回し』というらしいです。この映画、ずーっと長回しです。
ちょっと追い詰められる感がありますね。あっちにこっちにカメラが動いて、いろいろなことを映し出すのですが、映像が繋がっていることによって自分がその世界を歩きながら見ているような不思議な感覚になります。没入感ってやつですね。そしてちょっと疲れる…気が抜けないから。

疲れるのは主人公がどんどん追い詰められるからかもしれませんが…。うまくいかないことばっかりなんですよ。そう一度返り咲きたい!という情熱はあるものの、まったくうまくいかない…。

バードマンの声

落ちぶれた彼もかつては大スターだった人間です。プライドだけはまだ高いんですよね。それは彼に聞こえているバードマンの声に表れています。周りが認めないだけで才能はある!自分の芝居で人々の愛を取り戻すことが出来る!って考えているんです。

すごいスピードで移り変わるネットの世界では「存在すらしていない」んだと娘に言われる始末なのにね…。たしかに最近のスターのほとんどがSNSのアカウントを持っていて自分で発信していますよね。
でも彼はSNSもブログもやっていません。くだらん!って。
ちまちまネットで小細工するなんてくだらないし、自分は芝居の才能で返り咲く本物の役者なんだ!というプライドが邪魔をしているんです。

しかし世間で大ヒットするのは、重苦しくて芸術的な映画ではなく、大爆発!銃撃戦!スーパーヒーローが飛び回る派手な映画。才能よりも話題性。主人公の彼には受け入れがたい現実です。

予期せぬ奇跡

しかし舞台の成功を目指してドタバタしているうちに動画が出回り、もう駄目だと舞台上で自殺しようとしたことで話題性もゲット。世間が騒いだことで、最低な批評をするといった批評家も(かなり皮肉っぽいとはいえ)良い評価を出します。

彼が認めなかったネットの世界が、結果的に彼を救ったわけです。
すべてを失ってプライドも捨てた彼は、彼が嫌っていたスーパーヒーロー映画で返り咲いたんでしょう…。最後のシーン、鳥を見て窓から出ていったということは、もう一度バードマンとして飛んだってことだと思っています。バードマン4出たんじゃないかな。と思っています。

プライドを捨てて新しい世界に迎合することで、人々に愛される人間になったわけです。彼にとってこれで良かったのか…映画界にとってこれがいいことなのか、っていうのは少し考えちゃいましたね。まぁでも死ぬよりはね…時代の変化についていく他ないのかもしれませんが。

軽くなること

最初からずーっと長回しで舞台上から舞台裏、街の通りとバーの中、ぐるぐる歩かされて主人公と同じようにへとへとな気分になっていたので、ラストのシーンではやっと解放されたーって感じだったんですよ。
主人公も同じ気持ちだったのだろうと思います。たぶん。表情も晴れやかだったし。こだわりとかプライドを捨てることで身軽になって、心も体も飛ぶことができたんでしょうね。

そういう風に「軽くなった」瞬間って、きっと多くの人が経験あると思うんですよ。
私もあります。30超えたあたりからマジで楽しいです。お金がないとか、病気とか、自分のダメさ加減とかであちゃーってなるときはもちろんあるけれど、私自身についても、世間についても期待を持ちすぎないことでめちゃめちゃ楽になったし、面倒なプライドを持たないことで出来ることが増えました。

舞台が思うように評価されず「恥ずかしくないのか?」って彼が怒鳴るシーンがあったのですが、そういう「恥ずかしい思いをしたくない」っていうプライドってかなり行動力を奪うと思うんです。下調べばっかりで行動できなかったり、人の目を気にしてやめちゃったり…。そういうプライドは捨てた方がやっぱり楽なのかもしれないな…と思いました。

捨てすぎると、ダメですけど。私ちょっと捨てすぎてるようなとこあるから、それを見抜いた人間にだいぶな扱い受けたりしてさ。そういうのはお互いに良くないので、最近は「ん!今のは侮辱されたのでは?」って思ったらちゃんと怒ることを目標にしてます。
…気付けないんだよなー!!!実際どうでもいいからさー。
目標にしているものの、怒った経験ゼロです。

アイキャッチ画像:Image by vinsky2002 on Pixabay